世の中のことについて考えた

83年生まれ、女性。元新聞記者、精神保健福祉士、その他。そんな私の硬と軟。

心神喪失者による殺人の「不起訴」

福祉新聞で知ったが、渋谷区の児童養護施設の施設長殺人事件は、犯人が不起訴になっている。

渋谷の児童養護施設長刺殺、元入所者の男性を不起訴

東京都渋谷区の児童養護施設で2月、施設長の男性(46)が刺殺された事件で、東京地検は17日、殺人容疑で送検された元入所者の男性(23)を不起訴処分とし、発表した。理由は明らかにしていないが、鑑定留置の結果を踏まえ、刑事責任能力を問えないと判断した。
 元入所者の男性は2月25日、児童養護施設「若草寮」の施設長室内で、大森信也施設長の右胸などを刃物で刺して殺害しようとしたとして、殺人未遂容疑で警視庁に現行犯逮捕された。その後、殺人容疑で送検されたが、地検は刑事責任能力の有無を調べるための鑑定留置を裁判所に請求し、3月13日から5月13日まで実施していた。
 若草寮は6~18歳を入所対象とする児童養護施設。男性は2012年から3年間、この施設で暮らしていたといい、「施設に恨みがあった。殺すつもりで刺した。施設関係者なら誰でもよかった」などと供述していた。事件当時29人が入所していたが、児童らにけがはなかった。
 地検は同日、心神喪失者等医療観察法に基づく審判を東京地裁に申し立てた。同法では、検察官からの申し立てがあった場合、裁判官と、医師が務める精神保健審判員の各1人による審判によって入院や通院など処遇の要否が決定される。 (朝日新聞

施設の関係者は複雑だと思う。心神喪失が認定された時点で、この記事にある「施設に恨みがあった」というのは、病的なものであり、施設での生活に原因のある逆恨みではない、ということになるのだろう。高校や大学卒業の年齢が来て、一人暮らしをして、行き詰まり、その人のストレス耐性に対して過度のストレスがかかったことが病気を引き起こすことは稀ではない。その病的な衝動・妄想が家族に向けられることも。

施設は、入所児童にとって「家族的」なものである場合は多いが、家族ではない。こんな結果を招く事件は防がなくはいけないが、一方で起きてしまった場合に不起訴を受け入れなければいけないというのもつらい。

厚生労働省のHPで、医療観察法による入院者数が疾病別に出ていた。やはり、統合失調症類が群を抜いて多い。

  男性 女性 合計
F0 症状性を含む器質性精神障害 6名 1名 7名
F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害 30名 7名 37名
F2 統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害 477名 133名 610名
F3 気分(感情)障害 22名 18名 40名
F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害 0名 1名 1名
F5 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群 0名 1名 1名
F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害 0名 0名 0名
F7 精神遅滞[知的障害] 8名 1名 9名
F8 心理的発達の障害 15名 2名 17名
F9 詳細不明の精神障害 1名 0名 1名

 

個人的な感覚として、統合失調症の発症を防ぐのは難しいと思うが(どれほどのストレスがかかった場合に発症してしまうかをあらかじめ認知できるケースは少ないのでは)、重症化を防ぐ手立てはあるのではないか。それは孤独を回避すること。

これまで、病気になる本人自身のために、支援を考える視点がほとんどだったが、こうして被害を受けた人について考えさせられてみると、不起訴をつきつけられる絶望感も重要な側面だと気づく。